研究概要

歴史的景観の実態

 近年, 歴史的景観の保全によるまちづくりが全国各地で行われています. その代表的な地区は全国93地区(H23.11.29)の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)です.  県内でみても, 新潟県町並みネットワークに40以上の団体が加盟(H20.3.31)するなど, 活動が活発となっています.

 このような地区では伝建保存対策調査などが実施されますが, 都道府県や郡単位で歴史的景観の網羅的な把握はなされておらず, 重要であっても見落とされている地区も多くあります. また, 町屋の外観デザインは地域により異なり, その把握のためにも, 広域的・網羅的な歴史的景観の調査が必要です. 一方で, いつ取り壊されるかわからない歴史的建造物について把握するためには, 調査をできるだけ早急に行う必要があります. また, 本研究室のプロジェクトの一つである花街に関しても, 花街建築が減少する傾向にあり, 保全の緊急性を要しています.

 そこで, 本研究室では, 町場などの全ての建造物を目視により一通り確認する簡易的悉皆調査を実施しています. 調査は研究の遅れが指摘される町屋研究への寄与だけでなく, まちづくりの資源として, 対象地の歴史的価値を再評価することも目的としています. このため, 地元報告会の開催やまちあるきマップの作成により, 対象地へ研究成果を還元しています. 研究によりまちづくり活動が活発化している地区として, 佐渡市小木や新潟市秋葉区小須戸が挙げられます.

歴史的環境保全・再生の制度・活動(国内およびアメリカ、カナダ)

 現在, 日本に残る歴史的な建造物や町並みの多くは, 法によって守られていない状況にあります. 例えば歴史的町並みに着目すると, 日本には1,000~1,300の歴史的町並みが残ると言われていますが, 法による保全が行われているのは僅か270程度です.

 そこで, 本研究室では, 歴史的な建造物や町並みを保全・再生するための法制度や市民団体などによる活動の実態などを調査・分析しています. 研究対象は日本国内の事例に限らず, この分野における先進国であるイギリス, アメリカ, カナダなどの事例も含みます.

 近年の研究には, 伝統的建造物群保存地区における建造物の修理・修景時のオーセンティシティ(真正性)に関する研究, イギリスやアメリカにおける歴史的町並み保全制度に関する研究(イギリス:保全地区(Conservation Areas), アメリカ:ナショナル・レジスター(National Register of Historic Places)), アメリカの歴史的町並み保全を行うナショナル・トラスト等のNPOに関する研究などがあります.

景観保全・形成計画/景観条例

 近年, 人々の価値観は量的向上から質的向上へと変化してきており, 歴史的景観や都市の景観に対する関心も高まっています. そんな中, 2005年に景観法が全面施行され, 自治体による景観規制に法的根拠が与えられました. また, 同年に施行された改正文化財保護法により文化的景観という新たな概念が取り入れられました. そこで, これらの制度の運用状況を明らかにし, 改善策を提案するための研究を行っています.

 そこで, 本研究室では,景観法による景観計画や景観重要建造物に関する研究, 高度地区に関する研究, 重要文化的景観の制度運用に関する研究などがあります.

まちづくりにおける住民参加/合意形成/NPO

 町並み保全や市街地活性化をはじめ, あらゆるまちづくりを進める過程では, 市民の参加や住民の合意形成が必要不可欠となっています. このため, まちづくりの場には市民・住民が 参加する仕組みが求められていますが, 参加の仕組みがうまく機能しないために, まちづくり活動が停滞する場合も多くあります. より円滑なまちづくりの進展のためには, 先進的なまちづくりの事例から成功(又は失敗)の要因を学び, 参加の仕組みを改善することが必要であると考えられます.


 そこで, 本研究室では, 主に歴史的資源を活かしたまちづくりや中心市街地活性化の事例を対象に, まちづくりを進める過程に関わる組織とその活動, 住民の合意形成過程や市民参加の実態などを明らかにする調査研究を行っています. 近年の研究の例としては, 伝統的建造物群保存地区指定に向けた住民の合意形成過程や, 中心市街地活性化協議会におけるタウンマネジメントの実態と課題などについて, 調査・分析しています.

 Niigata Univ. Urban_Planning_Laboratory